国外転出時課税・納税猶予の注意点

よく出国税と言われる国外転出時課税については、そもそも有価証券を1億円以上もっていて含み益があり国外に転出する時にかかる、ということで、実務上それほど該当することがが多くないことから、日本でも多く申告を経験している税理士事務所は少ないと思います。

かなりニッチな内容ではありますが、よく相談を受けたりする中で、これは注意が必要とか、あまり知られていないんじゃないか、ということがありましたのでご紹介しようと思います。


なお、同じ『出国税』でも、2019年から海外旅行に行くときに千円払わないといけないという全く別の出国税がスタートしており、ややこしいので、以下では国外転出時課税と書くようにします。


目次


制度概要

2015年7月1日以後に国外転出(国内に住所及び居所を有しないこととなることをいいます。)をする一定の居住者が1億円以上の有価証券等を所有している場合には、その有価証券等の含み益に所得税及び復興特別所得税が課税される制度です(所得税法60条の2)。

よく聞かれる質問としてすでに外国に居住があり日本の非居住者となっている人が、国内の証券会社(自己名義)から国外の証券会社(自己名義)に証券移管した場合に当制度の対象になるかという点がありますが、これは特に居住変更が伴うものではないので、単に居住の変更を伴わない有価証券の移管だけでは国外転出時課税の対象にはならないものと考えられます。


納税猶予制度

国外転出時までに納税管理人の届出をした方は、確定申告期限までに確定申告書の提出をし、納税猶予分の所得税等及び利子税の額に相当する担保を提供することにより、当該所得税の額について納税が国外転出から5年間猶予されます。また猶予期間中は、毎年のその年の確定申告期限までに継続届出書の提出が必要です(所得税法137条の2)。


国外転出時課税・納税猶予制度の注意点

この国外転出時課税については以下のような注意点があります。実際に適用漏れで不利に取り扱われてしまったケースも目にしたこともありますので注意が必要です。

〈1〉概算取得費

漏れてしまいやすい論点として、概算取得費の適用があります。原則的には譲渡した株式等が相続したものであるとか、購入した時期が古いなどのため取得費が分からない場合に、取得費の額を売却代金の5%相当額とすることも認められる、という制度です。この制度については、取得費がわからない場合だけではなく、実際の取得費が売却代金の5%相当額を下回る場合にも、同様に認められるとされています。

国税庁 No.1464 譲渡した株式等の取得費
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1464.htm

上場前に移住したのち、株式の売却を行う場合など、出資額が時価の5%未満になっている場合も考えられ、概算取得費を使えるケースがあるものと思います。この点、概算取得費について適用を忘れていて実際の申告後に適用した方が有利と分かったケースにおいても、当初申告が間違った申告ではないことから、更正の請求が認められることは非常に難しいものと思いますので注意が必要です。

2〉納税猶予中に株式売却した場合の申告期限

途中で株式を売却した場合の申告・納付期限は通常の所得税申告の期限である3月15日ではなく、売却した日から4ヶ月後となります。また、納税猶予されている金額について利子税がかかってしまうという点も注意が必要です。

〈3〉相続・贈与時も対象になる

この国外転出時課税については、居住を海外に移す場合のみでなく、相続・贈与により非居住者に財産が移転する場合にも対象となります。

国外に居住する相続人等が、被相続人(※1)から、相続又は遺贈により、有価証券等の全部又は一部を取得するときに、被相続人が相続開始時にその有価証券等を譲渡等したものとみなし、その有価証券等の含み益に所得税等が課税されます。

これは国内に住む贈与者(※2)が、国外に居住する親族等へ有価証券等の全部又は一部の贈与を行うときは、贈与者が贈与時にその有価証券等を譲渡等したものとみなして同様の課税が生じます(所得税法60条の3)。

(※1)原則として相続開始日前10年以内において、国内に5年を超えて住所又は居所を有している者で、かつ、相続開始時において1億円以上の有価証券等を所有している者に限ります。

(※2)原則として贈与の日前10年以内において国内に5年を超えて住所又は居所を有している者で、かつ、贈与時において表面の を1億円以上所有等している者に限ります。

制度がスタートしてしばらくは、(そもそも相続が発生しないと出てこない論点なので)実際のケースを見かけずあまり気にされていなかった気がしますが、やはりこの適用事例を少しずつ見かけるようになってきました。

御子息が海外に居住している場合、またはご自身が海外に住んでいてご両親が多くの有価証券を保有されている場合などは、この相続・贈与での国外転出時課税の適用可能性があります。国外転出時課税が適用される場合には、含み益に所得税課税がされた後に、相続税が課税されるという形となり、一時に支払う税負担がかなり大きくなってしまったり、申告スケジュールがかなりタイトになってしまうので、今後注意が必要になります。


おわりに

なかなかにニッチな話題でしたが、あまり日本でも経験がある会計事務所も少なく見落としやすい論点じゃないかなと思いましたので、取り上げてみました。もし気になる点があればご担当の税理士先生にお問い合わせされることをおすすめいたします。ご参考になれば幸いです。