任天堂のファミリーオフィス

ブルームバーグの記事で任天堂の創業家の山内家のファミリーオフィスが設立されたという記事が出ていました。

任天堂中興の祖からバトン受けた28歳、創業家資産で技術革新支援 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-05-24/QTJUNMT0G1KX01

日本では、個人財産(特に承継したファミリー財産については)について話すのはなんとなくタブーな風潮もあってか、こういったファミリーオフィスに関する記事が大々的に出てくるのはかなり珍しいと思います。

ファミリーオフィスを立ち上げたのは、血縁的には故山内溥元社長の孫に当たる山内万丈氏とのことです。
血縁的には、と書いたのは法律上は溥氏の養子となっており、法律上は実の父親で元任天堂企画部長の克仁氏と兄弟関係になっているとのこと。こう言ったプランニングは富裕層の相続税対策としては割とよく見られるものです。詳細は割愛しますが、相続人を増やすことで、基礎控除が多く取れることと、税率の緩和効果などを目的とするものです。

日本のファミリーオフィスには珍しくホームページまでしっかりと整備されていますが、面白いのが、任天堂の大株主のファミリーオフィスだけあってホームページがゲームの雰囲気に作り込まれています。


目次


ファミリーオフィスの活動概要など

ウェブサイトには、ファミリー理念や今後どういった活動をやっていくか、また詳細な経営陣の体制などが記載されています。(ホームページは凝ってて面白いんですが、タブレット端末で見てるせいか少しバグが多いのも昔のゲームボーイを思い出しました。もしかして裏コマンドがあったりして・・・)

Yamauchi No.10 Family Office

そしてなんとフェイスブックページやツイッター、リンクトインまであります。今まで日本ではどちらかというと、税金対策の資産管理会社という趣きが強かったファミリーオフィスですが、欧米やシンガポールなどでは、ファミリーオフィスの役割として、今後は受け継いだファミリー資産をどう社会に役立てていくか、どういう価値観を持ったファミリーなのかをPRするというを持っていることが多いと感じます。

これは、ファミリーについての社会的認知度、レピュテーションをあげるということももちろんですが、ファミリーオフィスが優秀な人材を獲得するためという狙いもあるでしょう(リンクトインを持っているのはそういう狙いがあるのでしょう。)。今後日本の創業家のファミリーオフィスはこういったことも参考にしていくような流れとなるかもしれません。
https://www.facebook.com/Yamauchi-No10-Family-Office-155395302912476

概要

タイプ:シングルファミリーオフィス
運用規模:推定1000億円
オーナー:任天堂創業家山内ファミリー
所在地:日本(東京)
投資対象:??

ファミリーの使命として、「常に挑戦する心を持って社会課題と向き合い、未来を良い方向へと動かすリーダーを発掘し、育成する」と記載されています。

理念

  1. 山内溥のレガシーである「独創性」「チャレンジ精神」「先見性」「ユーザー目線の思考」を継承していく。
  2. チャレンジ精神を持って次代の社会課題に向き合うことで常識にとらわれないイノベーションを起こし続ける。
  3. リーダーシップを持って日本社会課題解決のために投資を行い、富を社会に還元することで社会と繋がっていく。
  4. 山内家の発展のために、先祖から紡がれ次世代へと引き継いでいく一族資産を運用し、永続的な社会への貢献を目指す。

経営陣

共同代表者は山内家一族、そしてその経営陣も凄まじい経歴の専門家が名を連ねています。
COOには有名なグローバルの運用会社シュローダーの日本の経営会議メンバーでもあった市村氏、CIO(最高投資責任者)にはドイツ証券、GS出身の村上氏、そしてCRO(リサーチ)のヘッドとして元GSのゲームセクターアナリスト杉山氏が入っています。またファミリーオフィス業界では有名で、プライベートバンカー資格の監修もされている米田氏もアドバイザーとして入るなど、やけに金融出身の色が濃い気はしないでもないですが磐石の体制といえます。

活動

投資に関しては、手法にとらわれない投資を行っていくとも書かれており、おそらくベンチャー投資やプライベートエクイティ投資なんかも念頭に置いているのだと思われます。下記のニュースのように、通常の株式投資だけではなく、優先出資やデットのような形での出資も可能性があるのでしょう。

任天堂の創業家、山内家のファミリーオフィスが企業買収に参戦する。海外で企業の創業家など富裕層が運用するマネーの動きが活発化する中、日本でも同様の動きが広がる可能性がある。

”任天堂創業家のファミリーオフィスが企業買収に初参戦-関係者 より

慈善活動については、見た感じ具体的には書かれていませんが、子供達の未来、次の世代が担う社会に富と知見を還元するというように書かれているので、何か寄付や奨学金事業などを念頭に置いているのかと思います。このあたりも、きっと今後は活動が活発になるにつれ開示されて行くのだと思います。新たなニュースなどが出てきたら、また更新していきたいと思います。


おわりに

日本のファミリーオフィスとしてはかなり珍しく欧米のファミリーオフィスのような発信の仕方、そして経歴がしっかりとしたプロフェッショナルを経営陣に置いていて、とても新鮮に映りました。今後は日本もこれを参考に、色々な形のファミリーオフィスができていくのでしょうか。今のところ、どちらかというと日本中心の活動をしていくのかな、という印象でしたが、日本を皮切りに、是非世界にも拠点を置いて活動を広めて、世界へ向けて発信していってもらいたいなと思いました。